和歌山地方裁判所 平成6年(行ウ)1号 判決
原告
児玉和雄(X)
右訴訟代理人弁護士
上野正紀
被告
和歌山県知事(Y) 仮谷志良
右指定代理人
小野木等
同
西田茂夫
同
深澤郁男
同
木村博孝
同
挧野耕一
同
夏見聡
同
藤崎強
同
山本昌孝
同
井口隆雄
同
幡井武司
同
文野興一
同
神田伸二
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 被告が、本件合意に即して換地処分をしなければならないかどうかについて判断する。
土地区画整理法一条は、同法が、土地区画整理事業に関し、必要な事項を規定することにより、健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とするものである旨規定し、また、同法二条一項は、土地区画整理が、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質を変更等する事業であると規定する。これらの規定からは、土地区画整理事業は、従前の土地の区画形質を変更等して、宅地の利用の増進等を図り、究極的には、健全な市街地を造成し、公共の福祉を増進させるための事業である。そうすると、従前の土地に対する区画形質の変更は、宅地としての利用の増進に寄与するものでなければならないと解される。そして、そのためいかなる区画形質の変更を行うかは多分に専門的技術的な事項である(同法七五条参照)から、宅地の利用増進の見地から、施行者の合理的な裁量に委ねられると解される。したがって、従前地の区画形質の変更について当事者の合意に拘束されないのはいうまでもない。
しかも、原告の主張する本件合意に基づいて区画形質の変更がなされたとすれば、乙土地に対する換地に本件土地が含まれなくなる結果、換地はいわゆる袋地となり、当該土地の利用に関して、建築基準法四三条一項の接道要件を満たさない等、法律上も事実上も相当の制約を受けることになる。なお、原告は、乙土地について、本件土地以外の道路に出られる通路があったと主張する。しかし、仮に何らかの通路があっても、そこに換地処分後も存続し得るような、第三者に対抗できる設定登記を経た地役権、賃借権などの通行権がなければ意味がないし、また、そのような権利があったとしても、将来地代改定等で関係人と紛争が生ずる可能性がある。それよりはむしろ、被告のなした仮換地指定の変更及び換地処分における区画形質の変更によるB土地の方が、当該土地の利用に関して、所有権でもって通路を確保できるので、一層優れているとも認められる。
そうである以上、本件合意は、乙土地に対する換地を定めるについて、宅地の利用増進、健全な市街地造成の見地(土地区画整理法一条、二条一項)からは合理的でないものであり、被告としては、かかる合意に拘束されることはもとより、これを尊重する必要もないものといわなければならない。
二 なお、原告は、本件合意により、山本オケイ及びその承継人(乙土地を順次取得した者)は、本件土地について無権利となるかの如き主張をするが、換地は、従前の土地の区画形質の変更の結果決せられるものであるから、山本オケイが乙土地を所有していた以上、その区画形質の変更の結果本件土地を含むB土地を換地として取得したからといって、無権利者が換地を取得したことにはならない。また、本件換地指定及び本件換地処分によって、健全な市街地の造成という目的に照らして異質の法律関係が創設されたとみることはできない。
三 また、原告は、被告は本件願が原告らの真意に基づくものではなく本件合意が存したことを知悉していた旨主張する。
確かに、〔証拠略〕によれば、本件換地処分前の一時期、仮換地指定図面に甲八号証のように七八街区一八画地は一ないし三の三つに分割され、本件土地部分に「十八ノ三」と記載されていたことがあり、その後「十八ノ三」との記載及び「十八ノ二」と「十八ノ三」とを画していた直線が抹消されていたことが認められ、〔証拠略〕によれば、被告保管の本件願の原本にホッチキスの跡が残っていることが認められる。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、被告は、本件願を受けて、甲土地に対する仮換地として七八街区一八の一画地を原告に、乙土地に対する仮換地として七八街区一八の二画地を山本オケイにそれぞれ変更指定し、右変更指定を原告及び山本オケイに通知したことが認められ、〔証拠略〕によれば、被告保管の本件願の原本の綴りの中には、甲一号証のごとき「土地分筆及覺書」との表紙や「覺書」は存せず、右原本にも「覺書」が添付されていたことを推測させるような割印は存在しないことが認められる。
右認定事実に照らせば、本件換地処分前の一時期仮換地指定図面中の七八街区一八画地が三つに分割された上本件土地部分に「十八ノ三」と記載されていたことや被告保管の本件願の原本にホッチキスの跡が残っていることから、被告が本件願が真意に基づくものではなく本件合意が存したしたことを知悉していたことを推認することはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
四 原告は、B土地の従前地である乙土地が道路に面していないから、換地処分の性質が宣言的確認処分であるとすると、被告は乙土地に対して通路の付属するB土地を仮換地指定することはできない旨主張する。
しかし、仮に換地処分の性質が宣言的確認処分であるとしても、仮換地指定後に従前地が分筆されて二人以上の所有となった場合、施行者は、仮換地の変更指定の申立てがあれば、その申立ての内容及び健全な市街地の造成という土地区画整理法の目的を考慮して、専門的合目的的見地から仮換地の変更指定処分をなすことができると解するのが相当であり、本件の場合にも、被告は、仮換地指定後に分筆され山本オケイに帰属した乙土地について、分筆図面上では袋地になっているが、原告及び山本オケイからの申立ての内容(山本オケイ取得部分に通路を付属させている。)を考慮し、袋地ができるような仮換地の変更指定処分を避けるという専門的合目的的見地から、通路の付属するB土地を仮換地指定したものと認めるのが相当であって、被告の右変更指定処分には、何ら違法不当な点はない。よって、原告の右主張は採用できない。
〔証拠略〕によれば、原告及び川崎慶子に対する換地処分は面積的にも権利価額の点でも照応の原則に反するものではないことが認められる。
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求には、全て理由がないことになる。
(裁判長裁判官 林醇 裁判官 中野信也 福田修久)